
●名古屋市中区栄、宗治ホールにて同ホール主催によるコンサート、「岩永善信ギターリサイタル」が去る11月9日に行われた。この新しいホールでの岩永の演奏は昨年に始まり、今回で3回目となる。プログラムはバッハの組曲中、最もフランス様式を反映した1曲である〈リュート組曲3番BWV995〉から幕を開ける。岩永は10弦ギターの機能を生かした演奏で、重厚な響きとともにこの難曲を高い集中力で歌い上げた。続くピアソラの作品群(〈天使の死〉〈セーヌ川〉〈ブエノスアイレスの夏〉)ではバンドネオンすら霞むほどのダイナミズム溢れる演奏に、客席から「ブラボー!」の声が上がる。グリーグの組曲〈ペール・ギュント〉、フリースネクの〈鱒の主題による変奏曲〉、そして終盤を見事に飾ったバルトークの〈ルーマニア民族舞曲〉に至るまで、岩永の演奏は彼一流の溢れんばかりの詩情をもって神秘と熱狂のコントラストを描いていく。
それはこの特異とも取れる楽器の可能性に向き合う岩永の音楽への追及度の高さを感じる素晴らしいものであった。岩永の演奏は、時にまるですべてのプログラムは彼自身のペンから生まれたものであるかのような錯覚に陥るような、ある種ギターの制約を完全に超越した音楽を聴かせる。音楽の真髄に迫り、技術的にも円熟した演奏は素晴らしい。コンサート終了時、「翼をもったギタリスト」と彼を評するある愛好家の声が聞かれた。次回の宗次ホール主催コンサートにも期待してやまない。
( 中部日本ギター協会 大野正子 )
【2009年(平成21年)<現代ギター2月号>より抜粋】