■コンサートレポート
年末恒例となった岩永さんの東京リサイタルに今年も足を運ぶことができた。1年の締めのコンサートとあって、本人も気合入っているだろうし、観客も同様。ハクジュホールがほぼ満席となって、演奏が始まる。クラシックギターを弾くのにうってつけの音響空間。客席もゆったりしいて、眠ってしまう危険もある。
第1部の冒頭、ヴァイスの「アントレ&シャコンヌ」は、このところ定番となっているが何回聞いてもいい。「アントレ」と「シャコンヌ」の組み合わせの妙も光る。心地よい緊張感とともにコンサートが始まってゆく。
真ん中は、サンサーンス「左手のための6つのエチュード」より、〈フーガ風に Alla Fuga、ブーレBourrée〉の2曲。『シンプルな書法にデリケートな表現を求めた作品。平に寝かせ片手で弾く大きなギター』とプログラムノートにある。バロックの組曲を思わせる形式で、ヴァイスの曲と自然につながっていく。サンサーンスの響きがちりばめられていて、ギターの新しいレパートリーとして定着しそうな予感。個人的にはバッハがなかったのが残念だが、サンサーンスも弾いてみたいと思わせる演奏だった。
1部最後のグラナドスは、有名な2つのスペイン舞曲〈アンダルーサとホタ〉を挟むように、「エピローグ」、「昔話」が挿入されている。最後の「ホタ」が終わると一つのコンサートを終えたような興奮と充実感に包まれる。
第2部の最初は、ドッジソンの「パルティータ第1番」。1部とは異質の楽曲。どこまでも明快で、歯切れよい演奏。2部の冒頭に置かれて、プログラム全体の中でアクセントになっている。カッコイイし、指の動きに目を瞠る。ごく当たり前に、曲の難しさを感じさせずに弾き切る。聴く方もどんどん岩永さんの世界に引き込まれる。
2部最後のグラナドスは、「スペイン民謡による6つの小品」から、〈前奏曲、祭りの思い出、東洋の行進曲、サパテアード〉の4曲。まるでギターのオリジナル曲のように自然に演奏。プログラム全体を締めくくった「サパテアード」では、軽快なリズムとグラナドスの響きに圧倒される。ギターでもこんな表現が可能なんだ!
コンサートを2つ聴いた気分だが、聴衆は貪欲でアンコールの拍手が鳴り止まない。「トルコ行進曲(ベートーベン)」は凄いの一言。「アメリアの遺言」、「聖母の御子」は、心にしっとり沁み渡る。
第1部の安定感のある演奏で始まり、後半第2部に入ってさらに調子が上がり、響きも豊かになって引き込まれてゆく。コンサート全体としての曲の構成、流れが秀逸である上に、より細やかな表現が求められる曲が増えた印象を受けた。
表現したい作品があって、そのためのテクニックが生まれる。そしてギターのレパートリーも、表現もさらに豊かになる。師は、どんどん先に行ってしまうのであった。
八木寛朝
■新聞・雑誌記事