「今年はバッハの無伴奏チェロ組曲の第三番を弾く」、岩永さんからそう聞いたのは夏前だっただろうか。正直「えっ?あれを…?」と思ったものだった。イ長調で「ドーシラソファミレドソミソド」という下降音型ではじまるプレリュード。明朗な主題。チェロで聴けば確かにそれなりの説得力がある。だがギターで弾いて曲になるだろうか。これまで他のギタリストで聴いた演奏は、音の少ない編曲に響きの乏しさが輪をかけて、まるでエチュード(練習曲)のような物足りなさだった。
岩永さんはこの曲を一体どう料理するのだろう。期待と不安の両方が胸の中で膨らみ続けるのを感じながらコンサートに臨んだが、聴いてしまえば筆者のつまらぬ心配など杞憂であったことを思い知らされた。まるでギターのオリジナル曲であるかのような編曲と演奏。すぐにレオンハルトのトランスクリプション集を思い出した。レオンハルトはバッハの無伴奏ヴァイオリンやチェロ組曲を自身チェンバロ用に編曲し、まるでそれらが最初からチェンバロのために書かれたかのような演奏を繰り広げている。岩永さんの編曲と演奏もそれに比肩するものだった。
だが、バッハで満足するのはまだ早い。この日の白眉はやはり「アルルの女」第二組曲だ。第一曲目「パストラール」を除く三曲は、以前のコンサートでも取り上げられていたが、全曲演奏は今回初めてであり、本邦初でもある。
前回岩永さんが全曲演奏に挑まなかったのは、おそらく、ギターソロで「パストラール」を弾くのは非常に困難であると判断したためだろう。だがこの日の演奏を聴いても、そんな困難さが一体どこにあったのか知る由もなかった。そして最後に圧巻の「ファランドール」。ブラボー!(甲田純生)
●繊細さとダイナミックな音の変化、一音ずつ音を大切に精魂込めて演奏される姿勢が魅力的!!
●アルルの女第2組曲を聴かせて頂いて、その編曲に驚嘆した!
●いつも大変意欲的なプログラムで感動しています。特に「アルルの女」Ⅱは初演で感激しました。ギターの魅力たっぷりです。
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