毎年恒例の宗次ホールのコンサート。プログラムノートを開けると、シューベルト、ヘンデル、サン=サーンスと、大作曲家の名が並ぶ。プログラムだけを見ると「何のコンサートだろう?」と思うかもしれないが、グラニアーニと藤井敬吾の名前がかろうじてギターのコンサートであることを思い出させてくれる。
1曲目はパッヘルベルのシャコンヌ。演奏が始まってしばらくして、感動のあまり身動きできなくなってしまった。なんという格調の高い音楽!そして、各声部がまるで別人によって弾かれたかのように、自由に躍動する対位法の妙!
ギターでポリフォニーの声部がこれほど見事に弾き分けられるのは、稀有なことと言っていい。少なくとも岩永さん以外では聞いたことがないし、ピアノであっても、グールドやリヒテルといった超一流の演奏家でしか耳にすることができない。
それがこの日最も如実に現れていたのは、ヘンデルの組曲の中のサラバンドだ。穏やかに流れる上声部の下でうねるように蛇行する低音部は、まるで生きて動いているようだった。
この日のファイナルは藤井敬吾作曲の「羽衣伝説」。20年ぶりの再演だが、以前に聴いたときより随分短いように感じた。もちろん譜面が変わっているわけではない。同じ曲が20年前より短く感じられるということが、岩永善信という演奏家が辿ってきた軌跡の、まぎれもない証なのだろう。
圧巻のファイナルを聴き終えて、「あとはアンコール」と気を抜いていると、アンコールの最初に告げられた曲は、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第18番の第三楽章、メヌエット!ベートーヴェンのピアノ・ソナタ?!そんなものがギター1本で弾けるのですか?!
それが弾けるのです、岩永さんなら。しかもとても素敵なメヌエット。ベートーヴェンも、まさかギターで演奏されるとは夢にも思っていなかったでしょう(甲田純生)。