岩永さんのコンサートと言えば、ギターのオリジナル曲はほぼ皆無で、バッハやシューベルト、ビゼー、サン=サーンスなど、大作曲家の曲がずらりと並ぶことが多いが、今年はなんと!プログラムの半分をギターのオリジナル曲が占めるという、珍しいコンサート!しかもその演奏が素晴らしい!
コンサート前半の最後におかれた「羽衣伝説」(藤井敬吾作曲)は過去にも何度か取り上げられたが、後半の最初を飾る「フォルクローレ組曲」と2曲目の「日記 ~ チェ・ゲバラ讃」を岩永さんが弾くのは今回初めて耳にする。
「フォルクローレ組曲」(M.アンデス作曲)について、プログラム・ノートには「アマチュアギタリストのレパートリーとして作られた曲だと思われる」とある。確かにあるレベルに達したアマチュアなら弾けそうだ。だがそうした曲こそ、岩永さんの手にかかると、まるで別の曲のように華やかに、そして格調高いものになる。
昨年、岩永さんが弾くグラニアーニの序曲を聴いた後、寡聞にもその曲を知らなかったため、後日You-tubeで検索して他のギタリストの演奏を聴いてみた。そしてあまりにもつまらない曲だったので驚いたものだ。岩永さんのコンサートで聞いたときにはあんなにカッコよく素敵な曲だったのに!「フォルクローレ組曲」を聴いてその思いをまた新たにした。
そしてクチェラ作曲「日記 ~ チェ・ゲバラ讃」。現代曲だが、これがまた面白い!今回のコンサートの目玉と言ってもいい。ゲバラはカストロとともにキューバ革命を成し遂げた人物だが、その後も革命を志し、最後はアフリカのボリビアでゲリラ戦に参加するも捕えられ、39歳の若さで処刑されている。この世の不条理とその世界に投げ出された不安、革命へと突き進む強い意志、そして近づく死の足音。それらをクチェラが音符にし、岩永さんが生きた音に変える。演奏が終わると、会場は万雷の拍手に包まれた。
最後になったが、パーセル、グラナドス、そしてファイナルのグリークも素晴らしかったことを付言しておく。
甲田純生
■新聞・雑誌記事
「現代ギター2月号」に掲載されました。