岩永善信クラシックギターリサイタル２０２２
２０２２年９月３日
静岡バッハハウス(静岡市葵区油山)
静岡バッハハウスは地元のバッハ愛好家の故W氏が１９９４年に建てた、静岡市葵区油山の山間部に佇むプライベートホールです。
ホール内にはピアノ(べーゼンドルファー)、２段チェンバロ、英国製のオルガン、クラヴィコードなどの楽器類のほか、膨大な楽譜、関連書籍に溢れた資料館でもあります。岩永のバッハハウスで初めての演奏会は小林道夫とのデュオによるオールバッハプログラムでした。２５年を経て今回は真に「イワナガ・ワールド」と表されるべき10弦ギターの魅力を十分に伝えるプログラムで、圧倒的な表現力を持って聴衆を興奮の渦に巻き込みました。早々に颯爽と１０弦ギターを掲げる岩永さんの姿に聴衆は釘付けとなりました。
ヘンデル、グラナドス共に歌い込む岩永の演奏は官能的な重低音の迫力と歌心一杯の美音に溢れておりました。
バッハハウスにバッハは欠かせません！個人的に無伴奏チェロ組曲第１番は大好きな曲です。シンプルな旋律美しさの中に生きる喜びを与えてくれる美しさに満ちております。通常ギターでの演奏は原曲のト長調がニ長調に転調されることでより明るい響きとなりチェロの持つ重厚さは薄くなりますが、低音域が拡大された１０弦ギターの音色は理想的と言える音楽を醸し出します。ストレートに心に刺さりました。
第２部のスタートは今までに耳にしたことの無いピアソラでした。崇高とも言えるタンゴの息遣いに会場の緊迫感が増しました。
普段はオーケストラの幽艶な演奏を耳にするマスネの『タイスの瞑想曲』、岩永の絶妙なアレンジによってロマンティシズムに満ちた世界を堪能させてくれました。
２５年前に清水の船橋舎小ホールで岩永の演奏会を主催した際、ブリテンの無伴奏曲チェロ組曲初めてを聞き、原曲を聴きたくなり後日オリジナルのチェロによるCDを購入しました。その後、岩永は他にもコダーイやカサドの無伴奏チェロの作品を編曲演奏していることを知りました。今回レーガーの無伴奏チェロ組曲を演奏すると連絡頂いた直後、早速アマゾンへ同曲のCDを注文しました。オリジナルのチェロ演奏はいかにもバッハに影響を受けたロマン派の曲でしたが、岩永の編曲によるギター演奏はよりロマンチックに、魅惑的なギターならでは歌心に満ちたアレンジで一気に引き込まれてしまいました。
この演奏会を通じて痛切に感じたこと、これだけの自身で編曲・演奏された１０弦ギターの為の楽譜を出版・レコーディングされれば数々のチェロ組曲を弾く人も増え、新しいレパートリーが広がっていくのになぁ…。
静岡県クラシックギター愛好会 杉山文朗
