
さて、岩永は世界で一本しかないというロマニリョス作の10弦ギターを抱えて登場、今年もまた熱い熱い本気の演奏で聴衆を魅了してくれた。一曲終わる毎に聴衆を遠い夢の場所へ引きずり込んでいき、最後には、言葉を失う程心を揺り動かしてしまう集中した演奏スタイルは今年も健在、アンコールでは立ち上がって拍手する人も現れるほど、聴衆を喜ばせてくれた。演奏後ロビーにてサイン会が行われたが、順番を待って並ぶお客様は男女を問わずどの方も輝きと華やぎにあふれとてもいい顔をしていた。その表情からも岩永の演奏が聴衆の心を大きく動かしたことが見て取れて、主催者としては報われる思いがした。 ところで岩永は現在CDを出さずに演奏活動を続けている。したがって聴衆はただひたすら、その「一期一会」の岩永の演奏に集中して耳を傾け続けることになる。この日もおそらく誰もが、岩永の指から紡ぎ出される一音一音をひとつでも多く頭の中、心の中、細胞のすみずみに残しておこうとする切なる意識を持って聴いていたことだろう。
同じ時間ひとつの会場に集まった人々が、たった一回のその時限りとわかっている奏者の演奏を共に聴き合う・・・・今の時代にこれほどまでに余計なものを削ぎ取り、突き詰めた音楽の聴き方をすることは他にあるだろうか。
岩永の演奏会は、いつのまにか「忘れかけている大切なこと」を私たちに思い出させてくれる貴重な機会でもあると言え、我々関係者はそのことに気づかされては心を新たにしている。
さて来春も新潟への招聘が決定している。近年の芸術活動は商品化した状態で広まっていく傾向にある(それがすべていけないということではないが)。その波に乗ることを堅く拒み、自身の音楽や音楽活動の在り方を守り、極め続けようとする岩永の姿勢に心打たれ、応援する人は新潟でもますます増え続けていくことだろう。
( 「岩永善信新潟公演を支える人々」代表 広瀬 )
【2008年(平成20年)<現代ギター10月号>より抜粋】
【2008年(平成20年)<現代ギター10月号>より抜粋】