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■コンサートレポート
6月27 日(土・19:15開演)、新潟市内にある新潟市民芸術文化会館スタジオAにおいて、「岩永善信ギターリサイタルin新潟13th〜10弦の響き〜」を開催、成功裏に終了した。
曲目は次の通り。アンダンテとプレスト(B.ガルッピ)、無伴奏チェロ組曲第2番BWV1008よりプレリュード・クーラント・サラバンド・ジーグ(J.S.バッハ)、ヴェルディの椿姫の主題による幻想曲(J.アルカス〜岩永編)〜休憩〜天使の死(A.ピアソラ)、タイスの瞑想曲(J.マスネ)、組曲「スペイン」op.232全曲(I.アルヴェニス)。アンコールは、「粉屋の踊り」(M.ファリャ)、ロンドンデリーの歌(アイルランド民謡)の2曲。
岩永善信氏は、世界に1本しかないロマニリョス作の10弦ギターと共に軽やかに登場。
ガルッピの生き生きとして慈愛に満ちたアンダンテからスタート、続いて浄化し昇華されたバッハを丁寧に進めて行く。その演奏はまるで作曲家自身と奏者が互いに敬意を払いつつ親密な関係で対話しているかのようにも感じられ、聴く者は知らず知らずのうちに音楽の深い場所に導かれていく。続く「ヴェルディの椿姫の主題と幻想曲」を弾き終えた頃には、聴衆はすでにこの奏者の本物の超絶技巧、加えて想像をはるかに超える音楽に言葉をなくし、打ちのめされたことと思う。
後半、「天使の死」で誰にも真似のできないピアソラの世界を繰り広げ、続く「タイスの瞑想曲」では、ギターでは極めて難解な技巧となる大きなフレーズでの音楽をより限界まで広げて表現し、壮大な世界を見せてくれた。そしていよいよ最後のプログラム、組曲「スペイン」が始まると、まさに"水を得た魚"のように奏者の演奏は一気に弾け、聴衆の心を怒濤のごとく巻き込みながら終演に向かって行った――。
岩永善信氏は、今年も自身が求めている音楽に向けて強く攻めていく姿勢をやめていなかった。並外れた才能を持つ人にしか見えないであろうはるか高く遠いところを見通した上で、「道なき道」を迷うことなく突き進んでいる潔い姿、そしてそこから聴こえてくる音楽の間には少しのかい離もなく一体となっていた、ということに強く胸を打たれる。
岩永善信氏とロマニリョスという楽器の間から生まれてくる音楽というものがあり、そして、それこそが岩永氏自身が求めてやまない音楽なのかもしれない、と気づかされる演奏会でもあった。
それにしても、ここまで、楽器、作曲家、と三位一体になって音楽を奏でられる演奏家は果たして他にどれだけいることだろう・・・・。
一方で、貴重なものとして後世に残り続けていくだろうと予測される編曲が岩永氏の手から次々と生まれ、編曲者自身の手により演奏を通して発表され続けている、という事実にもしっかりと目を向けていたい。そのことの重大さを私たちは見逃してはならないと思う。
その貴重な編曲と演奏をリアルタイムで直接視聴できる私たちはとても幸運な時代にいて、その稀有な偶然に立ち会えることは決して当然のことではない、と言っても大げさではないと思う。
それを考えると、これまで、13回も新潟公演をさせて頂いたことは本当に光栄であり、来県する度全力投球の姿勢で演奏して下さる岩永善信氏には心から感謝したい。
ギタリスト岩永善信は、CDも動画も出さず活動を続けている。従ってこの奏者のコンサートの後、一切の録音も録画も残らない。コンサート本番のたった一度の音が耳と心の中に残るのみ――2度と聴き返すことのできない演奏の場を準備し提供しようとすると、あらゆる場面において次元の高いことが要求され、刹那と極限の緊張が突きつけられてくることもある。
それでもなお、それだからこそ、この新潟においてたくさんの聴衆にこの芸術家の演奏を堪能して頂ける機会を持ち続けていくことには大きな意味と価値があると思える。これからも「岩永善信新潟公演」を一回でも多く重ねていけたらと願っている。
「岩永善信新潟公演」主催者 広瀬恵子
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